「大奥妖斬剣」その2


 「……それで、千枝殿は?」
「はっ、玄安殿の見立てでは、淫欲に取りつかれたまま元に戻らぬとの事。ここはいっそ病死という事にして、一思いに……」
 臣下のその言葉に、普段は穏やかな笑みをたたえている老中の顔が一変して険しくなっていた。
「ならぬ!それはならぬぞっ!あの方は……千枝殿は帝室の血を引いておられるのだっ!何としてでも元に戻して差し上げねば、……幕府が滅びることになる」
 老中、是永陸奥之守時貞は唸るように言う。
 夜が明け、大奥内部は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。つい先月、大奥入りしたばかりの千枝、そして孔雀衆の副長である志乃の二人がドロドロの粘液にまみれ、お互いの身体を狂ったように貪りあっている所を発見されたのだった。
 二人とも著しく錯乱しており、快楽以外の事を考えられなくなっているようだった。
 状況からしてあやかしに犯されたのは明白で、直ちに城内くまなく捜索が行われたが、その気配はおろか、痕跡すらつかめなかった。
 色欲の権化と化した二人の少女は、相手構わず愛撫を求め、相手が居ないと激しい手淫に耽る為、手足の自由を奪って薬で眠らせてある。
「それにしてもあやかしめ! どうやって入り込んだのだ!? この城の守りは霊的にも完璧な筈だはなかったのか!?」
 苦渋の表情を浮かべて告げる老中の言葉に、臣下は平伏したまま言葉を発した。
「……恐れながら、いかに霊的な防御を施そうとも、必ず鬼門は生じます。更に内部から手引きすればあやかしに入り込めぬ場所など御座いません」
 老中の懐刀として名高い上総月宗佑が残酷な真実を告げる。彼は先程まで先頭に立って城内捜索の指揮に当たっていた。普段は精悍なその顔には疲労と落胆の色が濃くへばりついていた。
「城内に手引きしたものが居ると申すのか!?」
「はっ。件のあやかしは淫技に長けております。なれば、その手管で城中の誰かをたぶらかし、下僕として使役する事も可能かと。憑依では御座いませんので、その身に残る妖気もごくわずか。城門の護符結界を抜けるのはたやすい事で御座いましょう」
「むう……場所は男子禁制の大奥、くノ一衆、孔雀衆総出で守りにつかせてはおるが」
 老中の表情が曇る。彼女らは確かに腕は立つ、しかし、どうしても女ゆえの弱さが出てしまうのだ。特に、淫術を操るあやかし相手では、女性は圧倒的に不利だった。
「決め手に欠けておりますな。てだれの者を送り込むにしても、場所は大奥ですからな、しかし、あやかしと互角以上に戦える能力を持った女武芸者なら、わたくしめにいささか心当たりが御座います」
 静かに告げる宗佑に。
「ま、まことかっ! 至急その者を呼び寄せい!」
 老中は叫ぶ。今回の不祥事の責を負って腹を切る覚悟は出来ていたが、あやかしを放って置いて死ぬのは無念の極みである。もし、あやかしが討てるのなら……。
「褒美は好きなだけ取らせる! 一刻も早くその者を呼び寄せるのだ!」
「はっ。……ただし、その者、ただの女では御座いませぬ……」
 そう言って宗佑は少し言いよどんだ。彼にしては非常に珍しい事だった。
「何じゃ、申してみぃ!」
 焦れたように老中は話の先を促がす。
「その者は……勘当されし我が妹にして……ふたなりで御座います」
 宗佑はそう告げていた。

 一晩中降り続いた雨は一向に降り止まず、眠気を誘う雨音を立て続けていた。
「……ほんと、よく降るねぇ……」
 軒先から途切れる事無く垂れ続ける水滴をぼんやりと見ながら女はつぶやいた。
 ここは有名な遊郭街の中でも一流の花魁を集めている事で有名な遊郭である。
 女はこの店でも一、二を争う人気の太夫で、名を茜という。
「天には逆らえぬよ……」
 やや低いが、はっきりと女だとわかる声が布団の中からする。
 そこに腹ばいになって気だるげにまどろんでいたのは全裸の美女だった。目鼻だちのくっきりとした気の強そうな顔立ちで、薄墨を引いたような眉と、紅などささなくとも鮮やかな朱の色をした唇が凛々しさの中にも色っぽさを感じさせる。
 太夫でさえかすんで見えるほどの美形であった。薄い上掛けから半ばのぞいている引き締まった裸身は、快楽のための肉人形として育てられてきた花魁達とは対照的に、しなやかなばねを内に秘めた野性味に溢れている。
 肩の下辺りまで伸ばされた髪は、今はしどけなく広がって彼女の半顔を隠していた。その様はぞくっとするほど妖艶である。寝乱れた布団から、二人が性の愉悦をともに味わっていた事が見て取れる。
 普通、どんなに金を詰まれても太夫クラスが女を相手にする事は無い。ましてやこの遊郭街でも指折りの人気を誇る彼女が……。
「あら、起こしてしまいました? 伊織様なら天の理も捻じ曲げてしまいそうですけれどね」
 窓際から立ち上がった茜は伊織と呼ばれた女性の横たわっている布団に歩み寄り、薄物一枚まとっただけの身体をしなだれかからせてゆく。
「ふむ……私のこの身体、これも天の理に反しているかな?」
 そう言って寝返りを打ちつつ太夫を抱き締めた女の股間には男性器があった。睾丸は無く、その部分は普通の女と同じような秘裂になっている。
 本来なら雛先があるべき場所からその男根は生えていた。
 彼女は両性具有者だった。二十年程前、この国一帯を箒星の尾が掠めた事があった。それ以来、数千人に一人の割合でこうした子が産まれるようになっているのである。
 普通は、ふたなりである事を隠して女として育てられ、尼寺に入れられたり、特殊なくノ一として忍び里に買われて行ったり、あまりいい境遇で育つ事の無いふたなりであったが、太夫に伊織と呼ばれたこの女はどうやら武士として暮らしているらしい。
 それは極めて稀有な事であった。
「嫌ですよぉ……あたしは伊織様の剣の腕の事を言ったんですよ。伊織様がこの遊郭街を護って下さるお陰であたし達は安心してお客を取れるんですから」
 そう言いながら、白く細い指を並みの男性顔負けの見事な、そして美しい男根に絡ませてゆく。その指を伊織はあえて拒まず、心地良さげに目を細めて受け入れた。
 遊郭街は周囲を堀で囲まれ、さながら要塞の如きたたずまいを見せている。男女の交合に伴う歓喜の波動が渦巻き、剥き出しの欲望が垂れ流されるこの場所は、人外の妖物どもにとっては恰好の餌場であった。
 それゆえこの街を守護する用心棒達は対人、対妖物双方の戦闘技術に長じた腕利き揃いで構成されている。それは異形にして異能の戦闘集団であった。彼らは忘八衆と呼ばれ、遊郭街を出ない事を条件に城下に住まう事を許されているのである。
 伊織は数年前、ふらりとこの町に現れ、遊郭の用心棒の職にありついてからはその超絶の腕を奮い、遊郭の守護者として最強の称号を手に入れていた。
「んっ! ……そうか……私はまた、おまえが今握っている物の事を言ったのかと思ったのだが……ぁ……」
 太夫の巧みな指捌きにたちまち男根を屹立させながら伊織は秀麗な美貌をかすかに赤らめて言う。
「あら、引け目に感じていらっしゃいますの? この美しく、完璧なお身体の事を」
 添い寝する形になった太夫は、伊織の形のいい乳房の先端で尖っている小ぶりな乳首を唇でついばみながら男根を優しくもてあそぶ。
「んっ! ……あぁ……そ、そんな事は無いが……くぅ……」
 トロリと潤み始めた鈴口を指の腹で優しく擦り上げられ、伊織は形のいい眉を寄せて押し寄せる快感に耐えている。
 茜は興奮に頬を染め、技巧の限りを尽くして伊織の快感を高めていった。
 伊織のような両性具有者の男性器は、勃起すると女性の雛先よりも敏感な快楽器官と化す。それを太夫の絶妙な技巧で責められては堪らない。伊織は敷布団を握り締め、身悶えせんばかりの快感の連続攻撃に耐えていた。
 口ではそう言いながらも、伊織はこの身体のせいで過ちを犯して勘当され、この遊郭街に流れ着いたのである。
 彼女は兄の嫁である女性と関係してしまったのだ。
 伊織が十四歳の時だった。兄の嫁として嫁いできて三年、そろそろ倦怠期に差し掛かっていた義理の姉によって伊織は童貞を奪われ、禁断の肉悦に目覚めさせられたのである。
 美少女の身体に少年の性器を持った伊織の妖しい魅力の虜になった兄嫁は暇を見つけては伊織を呼び出し、その甘い身体を貪った。
 彼女は兄嫁の手で女同士の愛の技巧を徹底的に叩き込まれたのだった。
 伊織も始めて知る肉の愉悦の虜になり、嬉々として兄嫁の愛撫を受け入れ、禁断の淫らな行為に耽った。それが彼女の兄、宗佑に知れ、兄嫁は離縁、伊織は勘当された。
 それから二年間、とある山中で剣の修行に励んだ伊織は、立ち寄った街で兄が将軍家に仕官した事を知ったのである。
 特に行く当てのなかった伊織は首都を目指し、つてをたどって兄と再会したが、上総月家への帰参はかなわなかった。
 それで仕方なく落ち着いたのがこの遊郭街である。
「ふふっ、身体が震えるほど感じてくださってるんですね、嬉しい……先走りの露もこんなに一杯溢れさせて……美味しそう」
 止めどなく押し寄せてくる快楽に頬を染めて喘ぐ伊織の表情と、その股間で硬く反り返ってひくついている薄紅色の肉柱を交互に見やりながら太夫は告げる。
 白くたおやかな指で扱かれながら親指の腹で揉み擦られている鈴口からは、クチュクチュと音がするほどの透明な先走りが溢れ出し、時折ビクビクと脈動しているこわばりの胴をぬめらせ、それに絡んで扱き上げている茜の指のすべりを良くする潤滑油として作用していた。
 ヌチュヌチュと淫らな音を立てて扱き上げられ、先端を指先でこね回されるこわばりははちきれんばかりに勃起し、火傷しそうな熱を茜の手のひらに伝えてくる。
 その熱は太夫の淫欲も煽り立てていた。
「ああ……こんなに熱く、硬くって……すぐに楽にして差し上げます」
 興奮に頬を染めた茜はその先端に唇を寄せ、桜色の舌を出して先端の切れ込みをチロチロとくすぐるように舐め回し、亀頭をぬめらせていた先走りを舐め取ってゆく。
 これは滅多に行う行為ではなかった。
 太夫クラスになると、客の方から愛撫する事は禁じられており、一方的に太夫が奉仕し、客を羽化登仙の快楽へと導くのである。
 性器への口唇愛撫は『口取り』と呼ばれ、太夫がよほど気に入った客でないと施さないものである。
 技術的には最高の物を持ちながら、茜はいまだかつてこの技巧を凝らした事は無かった。それを望む者もいたが、茜の超絶の指の技巧に失神するほどの快感を与えられ、それで満足してしまうのだった。
 茜が自ら望んで口にするのは伊織のものだけである。
 んふっ……はむっ……くちゅ……ちゅぱっ、ちゅぱっ……。
 はちきれそうに勃起した伊織のこわばりをいとおしげに咥え込んだ茜は、技巧の限りを尽くして伊織をもてなしていた。先端の切れ込みに舌を這わせながらくびれを唇で締め付け、時折頬がこけるほど吸引し、尿道内に溜まった先走りを吸い出してすすり込む。チュウチュウと音を立てて息の続く限り吸引した後口を離し、赤く色付いて震える亀頭部に息を吹きかけて冷ました後、次の瞬間には熱い口腔に再び迎え入れてぬむぬむと喉奥まで呑み込んでゆく。
 熱く柔らかな喉粘膜が伊織の肉柱にぴったりと張り付き、絶妙の力加減で扱き上げる。何度かそれを繰り返した後、再び亀頭部を集中して舐め回し、カリのくびれや裏筋を丹念に舐めくすぐった。
 解放を欲するようにヒクヒクとしゃくりあげる先端から漏れ溢れた透明なぬめりを、茜の舌が残らず拭い去っていく。
「んぁぁ……うっ……はぁぁぁ……」
 伊織の喉から抑えきれぬ官能の声が漏れる。彼女の味わっている快感は、同様の愛撫を施された男性の快感とは桁違いに大きなものだった。
 さらに茜は白くたおやかな両手の指で伊織の引き締まった裸身のそこかしこを撫で回し、快感を与えていた。固く勃起した乳首をくすぐり、指先を蠢かせて乳房をこね回し、引き締まった腹部から脇腹をさわさわとくすぐるように撫でさする。
 もう片方の手は勃起の下に位置する秘裂をなぞり、愛汁に濡れた柔らかな肉ひだを指先でこね回し、膣口に浅く潜り込んでくじり、後ろの蕾を爪の先でコリコリと引っかいたりして刺激している。
 花魁として身に付けた愛の技巧を全て駆使して、茜は伊織を最高の絶頂へと導いていく。絶頂寸前まで快感を高めては愛撫を緩やかなものにすることで、彼女の身体の中に官能を溜め込んでゆく。
「うあぁ……茜……もっ、もう……」
 並みの男なら十回は果てているであろう愛撫に耐え抜いていた伊織も、ついに屈服しようとしていた。
 こわばりの脈動が大きくなり、先端の切れ込みから溢れる先走りの量が急激に増加する。
秘裂のひくつきも大きくなり、膣口と肛門もキュッ、キュッと断続的に収縮して限界を訴えていた。
「……飲ませて……」
 目元を染めてそう言うと、茜は先端を咥えて強烈に吸引していた。同時に秘裂に挿入した二本の指で勃起の付け根にあるコリコリした輸精管をいじり回す。
「んひぃぃ!」
 のけぞった伊織の身体が硬直し、痙攣した。
 そこは両性具有者の最大の急所で、痺れるような快感を送り込んでくるのである。
 二本の指で挟み込んだ輸精管を絶妙の力加減で扱き上げられ、溜まりに溜まった精汁が胎内奥深くにある精嚢から搾り出されて勃起の胴内に込み上げていた。
「くぁぁぁ……はっ、果てるっ! んくうぅぅぅぅっ!」
 布団の端を噛んで嬌声を抑えながら、伊織はしたたかに放っていた。口腔内でビクビクと脈動した亀頭の先端から灼熱の精汁が迸り、茜の舌の上に両性具有者独特の薄甘い精液の味が広がる。
 膣内で輸精管を弄っている指先にもその中を流れる濃厚な精液のプリプリした感触が伝わっていた。脈動のたびに伊織の身体がビクンビクンと跳ね上がる。
 その腰を抱え込むようにして茜は迸るものを一滴も余さずすすり込んだ。
「んんっ!」
 伊織の射精を口腔で受け止めた茜も興奮の頂点に達し、軽く果てて身を震わせる。白く細い喉がこくこくと動き、大量の濃厚な迸りを飲み干していく。
 並の男性の倍以上の時間、脈動は続いた。
「はぁ……はぁ……茜……」
 こわばりを舐め回して後始末をしている茜を抱き寄せた伊織は、先程自分の放ったものを呑み込んだばかりの口を吸い、舌を絡めていた。茜も積極的に舌を使い、唾液を交換し合う。絶頂直後の敏感な身体を撫で回される快感に震えながら、二人の美女は情熱的な口づけを続けていた。
「……伊織様」
 ふすまの外から声がかけられる。伊織はそれを既に察していたのか驚きもしない。しかし不機嫌そうに眉を寄せて茜との口づけを止めていた。
「……源三……閨に忍んで来るとは無粋だな」
 伊織は不満を隠さぬ声でふすまの向こうに居るこの遊郭の用心棒、元忍び衆の源三という男に声をかけていた。
「火急の事ゆえ、お許しを……お城から使いが来ております。書状を携えておりますが」
「書状?」
 怪訝そうな表情を浮かべて身を起こし、枕元に畳んで置いてあった薄物をまといながら伊織は問い掛けた。
「はい。兄上様からの招喚の書状に御座います」
「……判った。すぐに行く」
「あんっ! 今日は一日中可愛がってくださるんじゃなかったんですか」
 今度は茜が不満そうな声を出す。
「そのつもりだったが、済まん。今度、この埋め合わせはするから」
「きっとですよ……」
 少し恨めしげにいいながらも、茜は伊織の身づくろいを手伝ってやる。

「……この書状からでは良く事態が判らぬな。私への召喚状である事は判るが、何故、私如き一介の用心棒を呼びつけるのだ?」
 使者が携えてきた書状に目を通した伊織は、使いの者に尋ねていた。
「はっ、上総月殿は詳しい事は教えて下さいませんでしたので……」
「そうか……で、いつ、城に上がれば良い?」
「ご用意が済めば直ちにでも」
「委細承知。昼には城に参ろう」
 使いの者が帰った後、伊織は大きくため息をついていた。
「兄上からの召喚状……どうせろくな事ではあるまい……」
 だからといって無下に断れぬ負い目が彼女にはあった。
 本来なら、兄嫁との不義密通は死罪に値する。それを勘当と離縁に留めてくれたのは兄の情けである。
 更に書状には『今回の事で功あらば、帰参を許す』との一文があり、それが彼女に決心させていた。
 伊織は手早く身支度を整え、笠を手に雨の降リ続く町へと出て行った。
 この雨にもかかわらず、結構な人の往来があり、どこぞやの金持ちを乗せているらしい籠が行き来している。
 決して眠らぬ快楽の街、それが遊郭街であった。
「さて、鬼が出るか邪が出るか……」
 そう言って見上げた伊織の視線の先には、遠く雨に煙りながらそびえ立つ城の姿が黒々と浮かんでいた。

 続く


大奥妖斬剣001                       大奥妖斬剣03

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