「大奥妖斬剣」  その10

 翌朝。
 日の出と共に見えない壁が、碁盤の目のように大奥内部に形成されていた。
 徳の高い僧や修験者ならば、薄氷のような霊気の壁を目視できる事だろう。
 あやかし以外の生物には何の妨げにもならない聖なる結界である。
 夜明けと共に起き出した女中達が、朝食の膳を捧げ持って、それぞれの主の下へ足早に向かっていく。
「お食事をお持ちしました……」
 その中の、とある一室の前に座し、奥女中は室内に声をかけた。
 障子の向こうから奇妙な声がした。
 うめき声とも、カエルの声とも取れる、なんとも嫌な感じの声である。
「もし……いかがなされました? ……ごめんなさいまし……」
 奥女中はそう言いながら、障子を引き開ける。
 つんざくような悲鳴が彼女の口から上がったのは、その直後であった。
「出たっ!!」
 夜明け前に起き出して甘美な一夜の汗を流し、身支度を整えていた伊織は一声叫ぶなり疾風の速度で駆け出した。
 たすきがけし、手甲をはめ、鉢金を巻いた戦装束が良く似合っている。
(やはり、この方は戦うために生まれてきたのだ……)
 伊織の後を追って走りながら、香苗は思う。
 駆けていく伊織の身体は凛とした精気に満ち溢れ、昨夜の交わりで消耗している様子は微塵も見られない。
(三度……いや、四度、あれほどの量の精を放ってもいささかも消耗しておられぬ。私などはまだ腰の奥が頼り無い感じだというのに……)
 己の胎内に、そして口腔内に弾けた伊織の精汁の熱さを思い返しながら香苗は思う。彼女にとってはまさに羽化登仙の甘美な一夜であった。
 下腹の奥に残る愉悦の残り火に頬を染めながら香苗は走り続けている。伊織のこわばりで存分に胎内をかき回されて泣き狂い、数知れぬ女悦の頂点を極め、ついには腰が抜けて失禁の尿まで漏らしてしまったあさましい自分の姿を思い出すと頬が燃えそうに熱くなる。
 それと同時に、目の前を疾走していく両性具有の女武芸者に対する信頼と、精神的な一体感がさらに増していることにも気付いていた。
 彼女と二人ならいかなる難事にも立ち向けっていける……そういう確信を抱いてしまうのである。
「さすがは大奥警護の精鋭たち。見事な布陣だ……」
 前を行く伊織が感嘆の声を上げるのが聞こえた。
 奥女中の悲鳴と同時に要所を固めた孔雀衆やくノ一衆も即座に反応し、十重二十重の包囲網を形成している。
「この先は、堺屋善衛門の娘、鈴音様のお部屋です」
 伊織の背に、香苗が声をかけた。
「町娘なのだな?」
「はい」
「大当たり!」
 伊織の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
 部屋の手前で、腰を抜かしながらも必死の形相で這いずってきた奥女中に出会った。
 くノ一衆が手早く彼女を保護し、眠り薬を嗅がせて連れ去った。
 記憶を操作され、ネズミに飛びつかれて悲鳴を上げた、とか何とか偽の記憶を植え付けられるのであろう。
 鈴音の部屋の障子は大きく開け放たれており、そこから室内で蠢く異形の姿が見える。
「あれがあやかし……なんと醜怪な……」
 伊織の書いた護符が作り出した結界に閉じ込められ、そこから出ようと足掻く巨大なあやかしの姿を眼にした香苗は、率直な感想を漏らしていた。
 それは脂を塗ったようにてらてらとぬめ光る身体を持った、漆黒の大蛇であった。熾火のように赤く光る双眼が、人外の妄執をたたえて伊織と香苗をぬめつけている。
 身の丈三丈(およそ九メートル)はありそうな身体を、畳の上でのたくらせ、結界の隙間を探してグネグネと這う。
「香苗殿、後詰をお願いします……」
 静かな口調でそう言った伊織は、滑るような足取りで間合いを詰める。
 あやかし以外には、結界は作用しないようだった。
 その右手が、空から何かを掴み取るような仕草をした次の瞬間、伊織の手には、忽然と一振りの太刀が出現していた。
 刃渡りおよそ三尺あまり(約一メートル)青光りする刀身を持った、豪壮な太刀だった。重ねも身幅も厚く、重厚な戦場刀の趣がある。
 上総月家に代々伝わる宝刀で、名を『鞘割』という。
 その名の通り、一度として鞘に収まった事の無い妖刀であった。
 大気中では数日のうちに、赤錆に似た微細な結晶に厚く覆われてしまう。
 それを研ぎ落とすのは至難の技で、最高級の砥石をいくつも使い潰さねばならないのである。そのため、普段は上総月本家の井戸の中に沈められていた。
 その使用を許されるのは、上総月家の家長のみ。
 あやかし討伐の任を了承する代わりに、伊織は兄から、この剣の使用許可を得ていた。 上総月家に代々伝わる能力……一般には飯綱使いという怪異能力として知られている、いうならば物体引き寄せの力で、伊織は井戸の底に眠っていた鞘割を、己が手の中に引き寄せたのだった。
 青光りするその刃は、如何なる物体をも切断する魔性の切れ味を持っている。
 伊織の接近に気付いたあやかしが、捨て鉢な行動に出ていた。あやかしにとっては鉄の壁に等しい結界に、頭から全力でぶち当たったのだ。
 嫌な音を立てて頭部がひしゃげ、肉が爆ぜてどす黒い体液が吹き上がる。
「むっ!」
 伊織がうめくのと同時に、半ば潰れたあやかしの頭部が、再び結界に叩きつけられた。 甲高い音と共に結界壁が薄氷のようにきらめいて砕け散る。勢い余って宙に舞ったあやかしの腹が大きく裂け、そこから全裸の女性が飛び出していた。
「鈴音様!」
 透明な粘液にぬめ光り、胎児のように手足を丸めたその顔立ちに、香苗は見覚えがあった。町人の娘として生まれ、大奥入りした数少ない女性の一人、鈴音だった。
 まだ宙にあるうちに、閉じられていた鈴音の瞳がかっ! と見開かれる。その色はあやかしと同じ、炭火のように底光る赤。
 一瞬のうちに耳まで裂けた口の中には、鋭い牙の連なりが見えた。丸められていた手足が伸ばされ、鋭い爪を生やした腕の一振りが香苗を襲う。
「はっ!」
 気合一閃、香苗は抜刀して迎え撃っていた。キュン! と空気が鋭い斬音を立て、あやかしと一体化した鈴音の手首が、目にも止まらぬ居合の一閃で斬り飛ばされる。
 奇怪な悲鳴を放ちながら、香苗の頭上を飛び越え、着地と同時に再び跳躍しようとした鈴音の頭上から、一瞬で追いすがった伊織の斬激が加えられた。
 壮絶としか言い様の無い、鞘割の切れ味だった。
 まさに唐竹割り……鈴音の身体は、頭頂から股間まで真っ二つになって左右に分かれて倒れる。
 ぶちまけられた血も、臓腑も、もはや人の物では無かった。

 「伊織殿、此度の働き、まことに天晴れであった」
 満面に笑みをたたえ、局は伊織をねぎらった。
「はっ……」
 彼女は平伏しつつ局の次の言葉を待っている。ここは大奥の実質的支配者、局の住居である。大奥に建ち並ぶ敷地内でもひときわ立派なつくりの屋敷であった。
 あやかしに憑依された鈴音の絶命を確認し、他にもあやかしの姿がないか探索した後、伊織は首尾の報告をしに局のもとを訪れたのである。
「これはわらわからの褒美じゃ、受け取るが良い」
 三方に乗せられた小判の包みが伊織の前に置かれる。
「はっ……では、謹んで……」
 変に固辞するのも局の機嫌を損ねそうなので彼女は三方の上から小判の包みを取り上げた。小判の包みは小さくともずしりと重い。恐らく五十両、かなりの大金である。
「あやかしも成敗され、これで大奥も安泰じゃ。ご苦労であったな、さて、此度の失態の責を老中殿に問わねばならぬのだが……」
 局はぽってりと厚い唇に好色そうな笑みを浮かべた。その目は目の前の極上の獲物に対する淫欲にたぎっている。
「本来なら切腹ものの失態よのう。おぬしの兄も家禄召し上げは免れぬ所ではあるが……どうじゃ、それに付いてちいと相談せぬか?」
 伊織に断れるわけがなかった。局は彼女の肉体を存分に貪ることを交換条件にして、老中と兄に対する問責に手心を加えるつもりなのである。他のことならいざ知らず、大奥に関する問題の最終的な処断の権利は局が握っているのだ。
「はっ。どうか、寛大な処置をお願いいたします」
 局にその身を弄ばれることが確実になったのを悟りながら、伊織は平伏したまま告げる。
「伊織殿、そうかしこまらずとも良い。ここでは内緒の話も出来ぬゆえ、奥へと参ろう」
 局はかすかに笑みを含んで声でそう言って身を翻した。着物に焚き込まれた媚薬香の匂いがふわりと少女剣士の身体を包み込む。
 見えざる触手に身体を絡め取られたかのような感触を覚えて伊織は小さく身震いした。
 奥の寝所に向かう局の後を、伊織は静かな足取りで追う。すでに観念しきった表情をしている。
 寝所にはすでに媚薬香の煙が薄い紗のように漂い、夜具が伸べてあった。
「のぉ、伊織殿。魚心あれば水心。聞けばおぬしは上総月の家を勘当されておるというではないか。たとえ帰参が叶っても、肝心の家が家禄召し上げでは笑い話にもならぬであろう。さあ、窮屈な着物を脱いでこちらへ……いや、わらわが脱がしてやろう。そのままこっちへおいで。悪いようにはせぬ。いや、天にも昇る心地にしてくれよう」
 妖艶極まりない笑みを浮かべて夜具の上に座した局は、伊織を手招きする。
 伊織は無言で褥の傍らに歩み寄った。
 自ら薄物一枚の姿になった局が擦り寄ってきて帯を解き始めた。しゅる、しゅる、という衣擦れの音がひとしきり続き、畳の上に着物が次々とわだかまっていく。
 やがて、下帯のみの裸身をさらした伊織の姿が、薄暗い寝室の中にほの白く浮かび上がった。贅肉一つない若鹿のような躍動感に溢れた裸身である。ツンと上を向いた形のいい胸乳の頂点では、淡色の乳輪から盛り上がった小振りな乳首が桜色に輝いていた。
 苛烈な武芸の鍛錬を積んできたにもかかわらず、きめ細かく健康的なその身体には目立った傷痕はない。うっすらと腹筋の凹凸を浮き出させた腹部、縦長に窪んだへそ、そして、そこからまろやかな曲線を描いた下腹。股間を覆う下帯の薄布には、女性には存在しないはずの器官の輪郭が、ふくらみとして浮き上がっている。
「ふふっ。ほんに素晴らしき身体よのう。その濃厚なる精気の味、わらわの舌に忘れられずに残っておる。まずは下帯越しに味わってみよう。こういう趣向も一興であろう」
 完璧ともいえる両性具有の裸身を鑑賞した局は、立ったままの伊織の股間に顔を寄せた。
 股間からほのかに漂う、男とも、女とも違う魅惑的な淫臭を肺いっぱいに吸い込んで、さらに欲情の炎を燃え立たせた熟女は、股間のふくらみにいとおしげにほお擦りする。
「んっ!」
 冷たい手で腿から尻の辺りを撫で回されながら、まだ勃起していない股間の肉柱にほお擦りされた伊織は、喉の奥でかすかにうめいていた。
 昨夜、香苗の身体にあれほど大量に注ぎ込んだにもかかわらず、彼女の淫欲の炎は、妖しい刺激によって再びその勢いを増そうとしている。
(この身体……淫らな業に満ちているな……)
 次第にこわばってくる下腹の感触に眉を寄せながら、伊織は思う。
「ふふっ、だんだん硬くなってきた。気持ちいいかえ?」
 頬に感じられる熱い業肉の弾力が、次第に硬度を増してくるのを感じて満足げな笑みを浮かべつつ、局は上目遣いに伊織の顔を見上げた。
 彼女が無言なので。
「答えよ、伊織殿。ふたなりのマラにほお擦りされて、心地良くなってきたかえ?」
 有無を言わせぬ口調で尋ねていた。
「……はい」
 ひどく恥ずかしげな表情を浮かべて小さな声で答えた伊織の反応に、熟女は心底淫らな笑みを浮かべた。
「そうかえ、ではもっと気持ち良くしてやろう」
 そう言った局は、布越しに勃起の中ほどを横咥えにして熱い吐息を送り込んできた。
「うっ!」
 勃起の胴に布を透過した吐息が絡んでくる。それは彼女の官能の炎をじわりと煽り、こわばりをさらに硬く張り詰めさせた。
 木綿地の下帯にうっすらと紅の痕を残しながら、局の唇は上下に蠢き始めた。時折、勃起の硬度を確かめるように布越しに甘噛みしてくる。
「んあっ! つっ、局様……噛まないで……下さいませ」
 伊織は切なげな表情を浮かべて身をひくつかせながら哀願する。陰核よりも敏感な両性具有者の勃起に、布越しとはいえ歯を立てられるのは、強すぎる刺激であった。
「ふむ。並みの男のものよりも敏感なようじゃの。ではもそっと優しくしてやろう。こういうのはいかがかな」
 下帯を大きく盛り上げた勃起の先端に局の唇が吸い付いていた。痛いほどに張り詰めた亀頭部を唇で締め付け、先ほどと同じように熱い吐息で包み込む。
「んくうぅぅっ!」
 キュッと目を閉じ、身をこわばらせて伊織はうめいた。勃起の中を局の吐息の熱が逆行してくるような感触に、気が遠くなりそうになる。
 布越しに亀頭を責めながら、局の指は尻肉を揉みしだき、次第に下帯の結び目に這い登っていく。
 白い触手のように蠢く熟女の指が、結び目を掴んでゆっくりと締め上げた。木綿の布地が下腹を圧迫し、秘裂に食い込んだ。
「ひんっ!」
 ビクン! と大きく身震いした伊織の股間から口を離した局は、右に、左に下帯の結び目を捻って股間全体を締め上げる。股間を守るべき布地が恥骨をグリグリと押し揉みながら秘裂を割り裂き、こわばりを圧迫してこね回す。会陰も押し込まれ、後ろのすぼまりにも間接的に甘い疼きを送り込んできた。
「どうじゃ、こういう責めもなかなかよかろう。ホトとマラを同時に締め上げられるというのはどういう気分じゃ? 心地良いかえ、ほほほっ」
 下帯を捻るたびにキュッ、キュッ、と硬直する伊織の反応から、かなり大きな快感に襲われているのを察した局は、かさにかかって下帯を捻る手に力を込めた。
 細くよじれた下帯が秘裂に深々と食い込み、むっちりとした「土手肉」をあらわにする。その上で痛いほどにそそり立ったこわばりもキュウキュウと圧迫されながら、下腹にめり込まんばかりに押し付けられた。
 特に亀頭部への圧迫は強烈だった。樫の棒をなめし皮で包んだような硬さを見せるこわばりの中で、唯一プリプリした弾力を持った先端部がギュリギュリと音を立てそうな強さで布地に押し揉まれる。
 鈴口から溢れ出した濃厚な先走りがざらついた布地にぬめりを与え、それが敏感な亀頭を揉み転がす動きに滑らかさを加えていた。
 局が下帯の結び目を掴んだ手を左右に捻るたびに、くちゅっ、ぬちゅっ、という粘液音が下帯の奥から聞こえてくる。
「ふぁ、あっ、あっ、つ、局様……局様ぁ!」
 強すぎる刺激を何とか和らげようと身悶えしながら、伊織は切れ切れに声を上げた。
 あまり強く拒否することも出来ないので、哀願するしかないのである。
 局の口腔に含まれて限界まで充血していた亀頭部への圧迫は、腰が抜けそうな快感を両性具有の武芸者に与えてくる。
 ガクガクと膝を震えさせながらも倒れずにいる彼女の下腹の奥では刺激に反応した精汁が熱く煮えたぎり、甘美な放出の予感が伊織の身体をわななかせた。
「もうこらえ切れぬ様じゃの。がまんせずに果てるがいい。へたり込んでもかまわぬぞ。ふたなりの射精の快感は男のそれをはるかに凌ぐというが、どうやら本当らしいのう」
 伊織の屈服の瞬間が近いのを悟った局は、征服欲を大いに満足させて、とどめをさすべく指の捻りを大きくする。秘裂が強烈に擦り上げられ、亀頭が捻り回される。
 その刺激で堪えに堪えていた疼きが弾けていた。腰の奥深くがビクビクと痙攣し、熱く甘美な痺れが渦巻きながら勃起の胴内を駆け上って来る。
「ひっ、あっ、あああああっ! はっ、果て……ますっ!」
 堪らずに畳の上にへたり込んだ伊織の下帯に包まれた股間がビクンビクンと激しく脈動し、濃厚な粘液を迸らせる。媚薬香の香りに、男のものとは違う両性具有者の精汁の香りがほのかに漂い始めた。
 下帯の表面に濃厚な精液が白く滲み出してくる。うっとりとした表情を浮かべて両性具有者の射精の瞬間を鑑賞していた熟女の瞳の奥に、淫欲と結びついた食欲の炎が灯った。
「おう。滲んできたではないか。布越しに吸ってやろう」
 局は脈動を続ける伊織の股間に顔を寄せ、ぽってりと厚い唇で布越しに亀頭を含んで吸引する。ジュルルルルッ! とはしたない音を立てて濃厚な精汁が吸い取られていく感触に、伊織は畳に爪を立ててのけぞった。
 大奥の支配者とは思えぬ荒い鼻息を漏らしながら、局は夢中になって濃厚な精汁をすすり込んでいく。同時に精気も吸い出されていく感触が、ただでさえ強烈な射精の快感をさらに大きなものにしていた。
 意識を白く染め上げられ、失神する寸前で長々と続いた射精は終わっていた。
「ふふっ。これぞまさに甘露よのう。寿命が延びていくのが手にとるようにわかるぞえ」 ぬめった唇を赤い舌で舐め回しつつ、局はにんまりと笑みを浮かべた。それはまさに淫魔の笑みであった。
「さて、今度はじかに味わってやろう」
 局は射精の快感で半失神状態で喘いでいる伊織の下帯を解き始めた。
 
 続く


大奥妖斬剣09


 
 

  
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