「ゼロ、深海の覇王 後日談」

 その1「ロッド君の初デート」

  超豪華巨大客船リヴァイアサン号の筆頭護衛官、ロッドは自室のバスルームにある鏡の前で入念に髪形を整えていた。彼はすらりと背が高く、端正な顔立ちをした二十代半ばの男性である。
 生真面目な表情を浮かべ、まさに金糸を思わせる純金色の髪をオールバックに整え、ほつれ毛が無いか何度もチェックしていた。数秒間鏡とにらめっこし、また櫛を入れて髪を撫で付ける。まるで髪の乱れが命に関わるかのような念の入れようである。
「ふぅ。これでいいか……」
 鏡の中の自分を納得させるかのように声をかけ、彼は待ち合わせ場所であるショッピングモールに向かう為に部屋を出た。
 身にまとっているのは鎧布と呼ばれる魔法処理された神官戦士の正装である。純白の木綿を思わせる厚手の布地で出来ており、優雅さと凛々しさを併せ持ったデザインだった。この世界最大の信者数を誇るアガルタ教団の退魔集団である聖堂騎士団の正装である。ただし、本来なら胸の部分に染め上げられている筈の紋章が無い。
 彼は元、聖堂騎士団長を勤めたほどのつわもので、リヴァイアサン号でも護衛官の筆頭に任じられていた。その戦闘能力は人としての限界レベルに達しており、邪神クラスの存在とも一対一で渡り合える自他ともに認める護衛官最強クラスの男である。
 真面目一途で説教好きなのがたまにきずだが、部下の信頼も厚く、人心掌握力に長けており、戦闘能力もずば抜けている。物腰も穏やかで王族や貴族に対する礼儀作法も完璧に心得ており、まさに完全無欠の護衛官であった。
 しかし……。
(……こんなに胸がときめくのか……まさかあのゼロとデートする日が来るとは、夢にも思わなかったな……)
 心の中でそうつぶやきつつ待ち合わせ場所に向かう彼の顔は、まさにウブな少年のような緊張を浮かべ、言いようの無い高揚感でほんのりと紅潮していた。

「ゼロさん、ちゃんと勝負下着穿きました?」
 いつもどうりの黒シャツと黒ズボンに青いベルトというスタイルに着替えているゼロの首筋に後ろから両手を回してぶら下がる恰好で、レキシアが声をかけてきた。こちらもいつもの黒いビキニスタイルの上下の上から冒険者用のレインコートを羽織っただけの軽装である。
「はぁ? 何で私がそんなもん穿かなきゃいけないの?」
 全く重さを感じていないかのようにレキシアをぶら下げたままブラシで髪を簡単に整えつつゼロは問い返す。
「だって、今日はロッドさんとデートでしょ? そのくらいの身だしなみはしておかないとダメですよぉ」
 ごく当然という表情でレキシアは言う。
「だからぁ、私は別にロッドとそういう仲になりたいんじゃないんだから……もうそろそろ待ち合わせの時間だからさっさと行くよ」
 ゼロはそう言いつつ部屋の壁にゲートを開いてレキシアをぶら下げたまま歩き出す。本来なら数百キロの距離を踏破するために使われる超高等魔法を、ゼロはわずかな距離の移動にも使用しているのである。無尽蔵の魔力の持ち主である彼女ならではの行動だった。
「だからゼロさん、ゲートの使い過ぎ! 歩いても五分程度の距離じゃないですか」
 最高レベルの魔道士が全魔力を振り絞っても数秒間しか維持できないゲートをまさに下駄代わりにポンポン開くゼロに、レキシアは呆れた表情を浮かべてしまう。
「別にいいじゃないの。ようやくゲート履歴に残らない開き方を覚えたんだから……ロッドをびっくりさせてやろうと思ってね。今回は真上から奇襲してやろうかなぁ」
 ゼロ悪戯っぽい笑みを浮かべて告げる。
「真上って……」
 絶句するレキシアをぶらさげたまま、ゼロはさっさとゲートをくぐった。タイムラグ無しで目的地にゲートの出口が開く
「お待たせぇ!」
「マジで真上に出るんですかぁ!」
「どわぁぁっ!」
 三者三様の声が交錯し、波乱含みのデートが始まった。

「いや、どうせあんたのことだからガチガチに緊張して待ってるだろうなぁって思ってね、さっきの奇襲で緊張解けたでしょ?」
 ロッドと並んで歩きながら屈託の無い表情で言うゼロに、
「……いっ、いや、びっくりしたというか、俺は別に緊張なんてしてないぞ……それに、あまり不容易にゲートを開いたら強力な妖獣の気を引くことになるからなるべく自制してくれないか? 常に君が迎撃できる態勢にあるとは限らないし……」
 ややどぎまぎした口調で答えたロッドはいつものくせで説教を始める。
「はいはい、相変わらずあんたは堅物だね。心配しなくても大丈夫だよ。わたしの開くゲートは特別だから探知なんてできやしないって。そんなことより、約束どおり寿司源でた〜っぷり奢ってもらうよ。そういう約束だよね、ロッド…」
 うるさそうに言いながらゼロは左側を歩くロッドに流し目をくれた。彼女の左眼は黒い革製の眼帯で覆われているため、流し目は右目、神眼によって行われることになる。
 いかなるものをも見通し、その視線自体に強力な退魔の力を持っている最強クラスの魔眼である。並みの魔法などにはびくともしないロッドだったが、さすがに不思議な輝きを放つ神眼の流し目にはクラッときたらしい。
「うっ……わ、わかってる。予約も入れてあるから大丈夫だよ……多分」
 たちまちのうちに耳まで真っ赤になって言うロッドを、ゼロは面白そうに、そしてレキシアはちょっと小馬鹿にした表情で眺めている。
 高位のサキュバスであるレキシアにとっては色事に未熟な人間は軽蔑の対象なのだ。さすがに面と向かって侮辱するようなことはしないが…。
 それに、そういうロッドが相手だからこそ今日のデートを黙認しているというのもある。
 間もなく、小粋な店構えの寿司源の引き戸が見えてきた。ロッドを先頭にのれんをくぐり、引き戸を開けて三人は店内に足を踏み入れた。
「へい! いらっしゃい!」
 威勢のいい男の声が三人にかけられる。白手ぬぐいで捻り鉢巻をした三十代半ばの角刈りの男がこの店の主人である源さんである。
 はるか東の島国固有の料理であった「寿司」を世界に広めるべく旅立ったという変り種で、リヴァイアサン号就航の話を聞いて駆けつけ、そのまま船内に店を開いたというバイタリティ溢れる男である。
 清潔そのものの店内はテーブル席三つにカウンターのみというこじんまりとしたもので、二十人も入ればあっさりと満員になってしまう。まだ昼前ということもあり、店内には三人以外に客は無かった。
「源さんお久しぶり〜」
 レキシアの声に、源さんはちょっと蕩けた笑顔を浮かべてみせる。彼は密かにレキシアのファンらしい。貴族の子弟や若い護衛官連中が作り上げた「レキシアちゃんファンクラブ」の隠れメンバーであるという噂もあった。
「らっしゃい、こりゃ珍しいねぇ、ロッドの旦那が女連れとは。両手に花とはまさにこのことだねぇ。羨ましいぜ、よっ、この色男!」
 源さんにひやかされたロッドはたちまちのうちに耳まで真っ赤になった。
「なっ、ぼっ、僕は別に……その……」
「ほらほら源さん、ロッドはそういうノリに慣れてないからからかっちゃダメだよ。今日は私とのデートなんだよ、レキシアはその見届け役」
 しどろもどろのロッドを見かねたようにゼロが横からフォローしてやる。
「でっ、デート!? いや、これはその……ゼロに貸りがあってだな……」
 普段の冷静沈着さを完全に失って狼狽するロッドを尻目に、ゼロとレキシアはさっさとテーブル席についていた。
 ゼロとレキシアが隣同士に座り、その前にロッドが着席する。リラックスしきったゼロとレキシアに比べ、ロッドはガチガチに緊張しているようにも見える。
「ほらほらロッドさん、そんなに緊張しないで下さいよぉ。緊張は消化に良くないですよ」
 硬い表情で座っているロッドにレキシアが声をかけた。
「あ、ああ、そうだな……この前はすまなかったな、ゼロ。君一人に覇王の相手をさせてしまって、あれだけの存在と戦闘せずに切り抜けられたのはみんな君の……むぐ!」
 また固い話を始めたロッドの口を、テーブル越しにゼロの手のひらが塞いだ。心地良い冷たさを持った彼女の手のひらが唇に押し当てられる感触は、堅物の神官戦士の胸を何とも表現しようのない歓喜にときめかせてしまう。
「まったくあんたは堅物だね、ここじゃあそういう仕事絡みの話は抜きだよ。まずは乾杯かな。源さん、ビールをジョッキで三つ!」
「ちょっと待った! 俺は神官戦士だ、酒は戒律で禁じられてる。えーっと、何か酒代わりのものを頼む」
 ゼロの声をあわてて制しながらロッドが叫ぶ。
「うはぁ、さすがはリヴァイアサン号で一番の堅物ですねぇ。ゴチゴチの朴念仁だわ……せっかくのデートなんですからもっとはめを外しましょうよぉ」
 レキシアは呆れた表情と声音でつぶやく。
「へいへい、お茶でいいかい?」
 源さんも苦笑しつつ大きな湯呑みにお茶を淹れ始めた。やがて大振りの寿司桶一杯の盛り込みが運ばれてくる。分量にして十人分以上あるだろう。
「来た来た、さて、それじゃあ遠慮無くいただくよ、ロッド」
 ゼロはそう言うと、嬉しそうに寿司を摘み始めた。レキシアもパクパクとかなりのペースで平らげていく。二人ともかなりのハイペースなのだが下品な感じはせず、奇妙な可愛らしさがある。
「……前から聞いてみたかったんだが、それだけの食事量を毎日摂らないと身体がもたないのか?」
 二人の食べっぷりに気圧された表情で、あまりデリカシーがあるとはいえない質問をしたロッドに、
「ん? ……まあね、食べたものはほとんど完全にエーテル変換して神眼と脳の維持に使っちゃうからね」
 ゼロはあっさりとそう答え、さらに言葉を続ける。
「ホントは周囲のエーテル吸収すればもっと楽にエネルギー補給できるんだけど、そうするとこの船の精霊力バリアが消えちゃうし、それに食事の方が色んな味を楽しめるからね」
 ごく当然といった表情で告げたゼロに、ロッドは驚きの表情を浮かべた。
「あ、わたしもそうですね。この世界だとエネルギーの消耗が早くって。ゼロさんが生体エネルギーもっとくれたらホントは食事なんていらないんですけど……」
 レキシアはそう言うと、ゼロに意味ありげな流し目をくれる。
「あははっ、まあ、そういうことだから、一杯食べなきゃいけないわけよ。何せ育ち盛りだから」
 レキシアの言葉を適当にはぐらかしながらゼロは言う。
「そうだったのか……しかし、育ち盛りというのは……」
 ゼロの大食いの意外な秘密を知ったロッドは、圧倒された声を出しつつ、ついつい彼女の黒いシャツの胸を形よく盛り上げたバストのふくらみに目をやってしまう。
 ドラゴンなどの高等魔獣は周囲の空間のエーテルを直接吸収することでその肉体を維持しており、そのためにドラゴンの巣の内部では魔法の効果が大幅に減じてしまい、大量のエーテルを消費する強力な魔法も使えなくなってしまうということはよく知られている。
 ゼロもまたそうしたエネルギー補給の手段を持っているのだろう。
 そうこうしている間に寿司桶はあっさりと空になった。
「もちろんおかわりはあるよね?」
 期待一杯の表情で尋ねてくるゼロに、ロッドはちょっと引きつった表情で頷いて見せる。
 カウンターの向こうで黙々と寿司を握っていた源さんは、そのペースを速めていた。さすがに彼もこんなにハイペースで平らげられるとは思わなかったのだろう。
「あ、あぁ、そう言うと思って二十人前を予約しておいたんだ……しかし、思ったよりもずっとハイペースだな」
 実際、彼は二人の食べっぷりに圧倒されてしまって、ほとんど食べていない。
「え? そうかな、これでもじっくり味わって食べてるつもりなんだけどね」
 ゼロはそう言ってレキシアと頷き合って見せる。
 源さんが持ってきたおかわりもあっさりと平らげ、三人は店を出た。
「あ〜食った食った。さて、食後のデザートに行こうかね」
「まっ、まだ食うのか!?」
 屈託の無い表情で言うゼロに、ロッドの呆れた声がかけられる。
「そんなに驚かなくても……せいぜいケーキ十個ぐらいのもんだから、レキシア、あんたはどうする?」
 ゼロに声をかけられたレキシアは、ちょっと意味ありげな笑みを浮かべて見せた。
「そうですねぇ、これ以上お二人の邪魔をするのもヤボってもんですし、わたしはここらで退散させていただきますよ。うふふっ」
 そう言ってレキシアはさっさと走り去っていく。
「さあ、行くよ、ロッド。これからがデートの本番……ふふっ」
 そう言って悪戯っぽく笑うゼロの美貌に、ロッドは再び胸をときめかせてしまう。
 黒いアイパッチで左眼が覆われてはいるが、それは彼女の美貌をまったく損なってはいない。それはかえって彼女の顔立ちに凛々しさを加味していた。
 以前は無表情で冷たい人形のようだったのだが、今では表情も豊かで、無口でぶっきらぼうだった口調も随分軽いものになっている。
 以前のように彼女に反感を抱く護衛官は一人もいなくなっていた。それどころか、カジノ担当の護衛官であるガイウスのように、ゼロに惚れていることを公言する者まで現れていた。それがロッドには何となく不愉快に感じらるのだった。

 まだ昼前ということもあり、ティーラウンジは空いている。
「えーっと、ガトーショコラとストロベリーミルフィーユを三個ずつ、それから……」
 紅茶のポットを持ってきたウェイトレスに大量のケーキを注文した後、ゼロは固まっているロッドに向き直った。
「ねえ、ロッド、私、ちょっと変わったよね?」
 少し真面目な表情になったゼロにそう話し掛けられたロッドは、
「あ、ああ、その、なんというか……良くなったよ、最初に会った頃は殺気の塊みたいだったからな。正直言ってこの俺でさえ恐怖を感じたよ」
 リヴァイアサン号に来た当初の無口で無愛想な彼女のことを思い出しながら答えていた。
「うんうん、それに無愛想だったよね。あんたにも色々迷惑かけたしねぇ……」
 しみじみした口調で言いつつ、ゼロは紅茶をひとすすりする。その動作はどことなく優雅に見えた。彼女の母親の一人には、名門の王族もいるので、その記憶から再現された物腰なのだろう。
「いや、迷惑だなんてとんでもない! 俺の方こそ済まなかったな……俺の無理解のせいで君には色々とつらい思いをさせてしまったこともあったし……君に……その……傷も負わせてしまった……」
 そう言いつつ、ロッドはあらためて彼女の生い立ちについて想いをめぐらせる。十一人の母親と父の能力、記憶、技能を全て受け継いで生まれた最強の存在……恐らく今まで彼が見てきた超絶の力の数々でさえ、ゼロの力の片鱗に過ぎないのだろう。
 人のみならず、神格レベルの吸血鬼やドラゴン、妖狐の力さえも併せ持って生み出された彼女は、そのあまりに強大過ぎる力の暴走を防ぐために、最初はその記憶、感情を封印されていたのである。人と触れ合うことでその感情が徐々に解凍されていくように設定されていたらしい。
 そのことを知らなかった護衛官たちは最初、ゼロを恐れ、次に、その倣岸無比な態度と言動に激しく反発したのである。
 結果、ゼロによる下級護衛官三十数名殴打事件が起きてしまい、多数の護衛官がリヴァイアサン号を去ることになってしまった。その影響はあれから一年近く経った今も残っている。
 そうした対立を完全に制することができなかったことに対してもロッドは大きな責任を感じているのだ。
「また眉間にしわを寄せて考え込んじゃって、そんな昔のことを蒸し返すんだから……ほれ、あーんして」
 ゼロの声に回想から呼び戻されたロッドは、目の前にケーキの切れ端を突き刺したフォークがあるのに気付いた。
「ほら、ここのガトーショコラは最高なんだよ。食べてごらん」
 隻眼に優しい光を浮かべたゼロが手に持ったフォークをクイクイと動かして促がす。
「え? いっ、いや、しかしこういうのはちょっと……恥ずかしいな」
 さすがに人目を気にしつつロッドは戸惑った表情を浮かべる。そういう行為にはまったく不慣れなのである。
「謝る気持ちがあるならあーんしなさい!」
 ゼロの押しに負けたロッドは黙って口を開けていた。フォークに刺されたケーキの小片が口の中に押し込まれる。
「ね、美味しいでしょ? ふふっ。こうしてると何だかラブラブな感じだよね」
 もぐもぐと口を動かしているロッドを見ながらちょっと楽しげな口調でゼロは告げる。
 ロッドのウブな反応が楽しいらしい。
 そう言われたロッドは口の中のケーキの味などまったくわからない。頭の中ではゼロの発した「ラブラブ」の言葉が呪文のように飛び交っている。
「……んぐ……んっ!!」
 ケーキを喉に詰まらせたロッドはあわてて紅茶でそれを流し込んだ。
 その様子を楽しげに見やりながらゼロは大皿一杯のケーキをパクパクと平らげている。
「ふう、ご馳走様……さて、これからどうする? ちょっと色っぽい所行こうか?」
 レキシアに仕込まれた流し目混じりのゼロのセリフに、ロッドは今度は紅茶を喉に詰まらせて激しくむせ返った。
「おやおや、ホントにあんたは堅物だねぇ……」
 そう言ったゼロは席を立ち、咳き込むロッドの背中に手を当てて魔力を送り込み、肺に流れ込んだ紅茶を排除してやる。
 苛烈な修行によって攻撃魔法に対する高い抵抗力を獲得した代償に、並みの魔道士の使う回復魔法を受け付けなくなってしまっているロッドだったが、さすがに絶大な魔力を持つゼロの魔法は効いたらしい。
「はぁ、助かったよ、ゼロ。さっきの魔法は?」
 あっさりと息苦しさから解放されたロッドの問いに、
「ああ、ホーリーディバイドと言って、体内の異物を排除する治癒魔法だよ。私の母親の一人が編み出したオリジナルで、毒だろうが悪霊だろうが楽々除去できるお勧め魔法だよ。教えてあげようか?」
 ちょっと自慢げな表情でゼロは答えた。
「いや、俺には習得できないだろう。かわりに医療センターの連中に教えてやってくれないか? 彼らなら有効に使ってくれるだろう」
「あんたはいつでも仕事絡みだねぇ……まぁ、気が向いたら教えるよ……さて、もっとくつろげる所に場所移動しようか」
 席を立ったゼロは、足早に歩いて行く。黒いカーゴパンツに包まれてキュッと引き締まった形のいいヒップラインに目を奪われてしまうのは、堅物の神官戦士もやはり男であることの証だろうか…。
「どこへ行くんだ?」
「ん? いい所だよ。戒律には触れないから安心しなさい」
 歩みを止めずに振り向いたゼロがロッドを連れて行ったのは、船体後部にあるグリーンドーム公園という施設だった。
 強化クリスタルの巨大ドームの中にリヴァイアサン号の船内にあるとは思えない緑地と木々の連なりが絶妙のバランスで配置され、要所要所にベンチが置かれていて、乗客たちの憩いの場になっている。
「ほら、ここだよ。いい所でしょ? 最近は食後にここで昼寝するのが私のお気に入り」
 日当たりのいい一角にあるベンチにゼロは腰掛け、隣に座るように促がした。
「ああ、いい所だな……」
 ちょっと居心地が悪そうに座りながらもロッドは相槌を打つ。そのすぐ横に寄り添うようにして近付いてきたゼロは、
「はぁ、ひなたぼっこしてたら昼寝したくなっちゃった。ちょっと肩借りるね」
 ロッドの返事も待たずに右肩に寄りかかってきた。ふわりと温かな重みが彼の肩にかかってくる。
「あ! お、おい!」
 いきなりのことに赤面して狼狽するロッドのを顔を見上げ、
「三十分だけ寝かせて。昼寝しないと身が持たないんだよ。お休み〜」
 ゼロはあっさり言うと目を閉じ、じきに静かな寝息を立て始めた。あどけないとさえ思えるその寝顔にしばらく見とれていたロッドは、ベンチに腰掛けたままガチガチに身を強張らせている。ゼロの髪の匂いがほんのりと漂ってきて彼の胸を甘く疼かせた。
 こずえで鳴き交わす小鳥の声がのどかな公園の空気を渡っていく。




(こんな所を他の護衛官に見られたら……)
 ロッドの心の中に奇妙な恥ずかしさと嬉しさが複雑に交錯する。彼がもっと積極的な性格なら、寝ているゼロの肩を抱いたりもするのだろうが、とてもじゃないがそんなことなど出来ない。
 長いような、短いような、嬉しいような、もどかしいような三十分が過ぎ、ゼロは大あくびしながら目を覚ました。
「はぁ、すっきりした。……今日は神眼のパワーを目一杯押さえ込んでるからさらに眠気が激しくって……」
 気持ち良さそうに背伸びをしてから言ったゼロの言葉に、ロッドは怪訝そうな表情を浮かべる。
「え? 何で神眼の力を押さえ込んでるんだ?」
「ん? ……だって、読めちゃうとお互い恥ずかしいし、面白みがなくなるでしょ」
「は? 何のことだ」
 ますます首をかしげるロッドである。
「わからないならそれでいいよ。さて、今日はそろそろお開きにする? 今度は貸し借り抜きでデートしようね。あんたにその気があればだけど」
「えっ、いや、だからデートとかそういうのだはなくってだなぁ……」
そういう話になると途端に狼狽してしまう彼を見るのがゼロには楽しいらしい。
「はいはい、じゃあ、お食事会ってことで。今度は最初から二人っきりで、ね。それじゃ、私はこれで。レキシアが待ってるだろうから……」
 ゼロはそう言うなり、さっさとゲートを開いて姿を消していた。
「あ……」
 何か言おうとしたロッドはそのまましばらく立ちすくんでいたが、やがて名残惜しそうにきびすを返し、護衛官事務所の方へと向かって歩き始めた。

「ただいまっと。あんたにしてはあっさりと引き下がったね、レキシア」
 ゲートを抜けて自室に戻ったゼロは、個室で待っていたレキシアを優しく抱き寄せながら話し掛けていた。
「うふっ。そりゃ、あの堅物ロッドが相手ですから、安心してゼロさんを任せられますよ。どう間違っても恋のライバルにはなりませんから。……いい子だったご褒美に、今夜は一晩中ゼロさんを気持ち良くさせてあげる権利下さいね」
 ゼロの身体にすがりつくようにして甘えながら、レキシアは魅惑的な笑みを浮かべてみせる。
「えっ! いや、一晩中はまずいなぁ……」
 いつものくせで頭をポリポリ掻きながらゼロはちょっと表情を引きつらせている。
 高位のサキュバスであるレキシアの全力愛撫を一晩中受け続けるのは、あまりにも甘美な拷問に等しかった。
「ダメですよぉ。そのくらいの価値はある気遣いだったでしょ? まずはこのまま気持ち良くしてあげますよぉ。久し振りに服着たまま射精しちゃいましょうね」
「やっ! ひあぁ! ダメだって、あんっ……レキシア……」
 カーゴパンツの布越しにペニスを刺激してくるレキシアの指に反応してたちまちのうちに勃起させてしまいながら喘ぐゼロの姿は無敵の魔法剣士にはとても見えないものだった。

「ロッド君の初デート」完

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