「アンデッドガール」

第二話 「最凶サイボーグな事」
 1・
  乾いた大地に乾いた銃声がパンパンと響く。ここはどことも知れぬ砂漠のど真ん中に作られた軍事キャンプ。私がここで訓練を受け初めて二ヶ月になる。
 拳銃に始まり、サブマシンガン、ショットガン、アサルトライフル、狙撃銃、ロケットランチャーや携帯用対空ミサイルまで、ありとあらゆる武器をほとんど一日中撃ちまくっていた。
 ガンマニアから見れば天国のような所らしく、ここはガンナーズヘブンと呼ばれている。
 私は今、拳銃の射撃訓練をしていた。人間の駆け足ぐらいのスピードで二十五メートル先を横切ってゆく直径十五センチほどの的めがけて連射する。
 一発でも外すと、私の後ろにいる教官に容赦なく撃たれてしまう。そう、冗談抜きで射殺されてしまうのだ。
 一発で即死させてくれるのならまだいいのだが(ホントはそれもイヤだけど…)お腹とか胸に一発だけ撃ち込んで、私が身悶えするのを見て楽しんでいたりもする。
 普通なら、苦痛に身悶えするのだろうが、私の場合、一定レベル以上の苦痛は、物凄い快感に変換されてしまうので、死ぬ程の苦痛は、文字どおり悶え死ぬ程の快感になってしまうのだ。
 そして、最悪なことにわたしは何故だか知らないが、何回死んでも蘇る因果な身体にされていた。
「的が三十メートル移動する間に十五発を撃ち込め。一発でも外したら即、射殺してやるからな」
 右手に持った拳銃を布で磨きながら、教官は楽しげに告げた。
 私は服に穴が開くのがもったいないという理由で、迷彩模様のビキニの水着スタイルだった。
 AVじゃあるまいし、女の子にこんな格好をさせて、砂漠の真ん中で拳銃連射させて何が面白いのだろうか?
 とか、なんとか思いつつも、規則正しいリズムで拳銃を連射し、全弾をターゲットに撃ち込むことが出来た。
「良し、全弾命中だ、ちょっとつまらんが、まあ合格だな。腕を上げたな、十三号」
 教官はそう言って私を後ろから抱き締め、荒々しく水着を剥ぎ取った。
「合格祝いにた〜っぷり犯してやる」
 やっぱりそう来るわけか……こういう展開にはもう慣れてしまった。この人は何かと理由をつけてはわたしを犯した。どうやら処女のまま不死身に改造されたらしい私は、犯されるたびに処女を奪われてしまうのである。
 それだけは何回されても嫌だった。あまり激しく抵抗すると、とってもむごたらしく
殺されるので、適当に抵抗して、後は教官のなすがままに任せている。
 かといって、マグロ状態だとナイフで解剖されちゃったりするので、その辺のバランスが難しいのである。
 以前の記憶が無いので、自分がどんな生活をしていたのか知らないが、今ほど不幸でない事は断言できる。私は自信を持って、世界一不幸な女の子だ!
 犯され、殺され、蘇ってはまた犯されて殺される。殺されてから蘇るまでの間、私が感じている苦痛と恐怖は誰にも理解できないだろう。
当事者である私でさえ、その全貌を記憶していないのだから……。
しかしそれが、とてつもないものである事は、身体が覚えていた。不死身であるのにもかかわらず、殺される事に異常な恐怖を覚え、身体が勝手に反撃を開始するのである。
「こらこら、そんなに暴れたら、挿入できないだろうが、何回やってもおまえはレイプが嫌いだな」
 当たり前だ、誰が好きになるか! そんなもん。
私は抵抗するが、教官はそれをあっさりと押さえつけ、無理やりねじ込んでくる。処女膜を荒っぽく突き破られる苦痛はすぐに腰が蕩けるような快感に変わり、私を屈服させてしまう。
 グチュグチュといやらしい音を立てて教官のモノがわたしの中をかき回し、喉の奥から色っぽい喘ぎを搾り出されてしまう。
「よしよし、いい声が出てきたじゃないか。そうだ、もっとタイミングを合わせて腰を使え、よし、いいぞ、この狭さ、この締め付けは処女を犯すときにしか味わえないものだからなぁ。それでいながら塾女の腰使い。やっぱりおまえは最高だぁ!」
 勝手に動き出した私の腰を抱えて激しく抽送しながら教官は楽しそうに言った。
 私は快感で口もきけず、カクカクと腰を突き上げて、ただただ刹那的な快楽に身を任せるだけだった。
 座位の恰好で抱え上げられ、下からガンガン突き上げられて最初の絶頂にのけぞっている私のことなどまったくお構いなしに、教官は激しく腰を使う。お尻をグニグニと揉んでいた指が、恥ずかしい孔にめり込み、直腸内をゴリゴリと掻き毟った。
「ひぎいいいいいっ!」
 普通なら痛みに絶叫する筈なのだが、私は強烈な快感に襲われて再び絶頂の大波に飲み込まれていた。教官が耳元で低くうめいた次の瞬間、お腹の奥に熱い迸りが弾ける。
「……さて、第二ラウンドの前に訓練の続きだ」
 散々楽しんだ末、自分だけさっさと後始末をしながら教官は言う。
 私はまだ放心状態で乾いた砂の上に仰向けになっていた。今日は殺されなかったから良しとしよう。
「ほお、そいつが噂の不死身の美少女戦闘マシーンか?」
 妙に硬い声がして、私はその方向に顔を向けた。強烈な砂漠の太陽が逆光になっていて、シルエットしか見えなかったが、がっちりした体格の大男である事はわかった。
 慌てて胸と股間を隠して身体を丸めた私にそいつのバカにしたような声がかけられる。
「教官に犯されて失神するような奴に組織の戦闘員が勤まるとは思えないな」
「そういうなよ、バリー。こいつは結構使えるぞ。なんといっても毎回処女だからな、はっはっはっ」
「戦闘能力のことを言ってるのだ。俺なら一時間で三十回はこいつを殺せる」
 なにやら物騒なことを大男……バリーは言った。
「出来ない方に今月の給料賭けた」
「では、やって見せよう。準備をさせろ!」
 何だか私が口を挟む間もなく、バリーと呼ばれた大男と、私の戦闘訓練が決定された。
「教官、あの人は一体何者なんですか?」
 武器倉庫で戦闘準備をしながら私は問い掛ける。私には一切の拒否権が認められていないので、戦いを拒むことは出来ないのである。
「逆らったらひき肉マシンに十回ぶち込んでやる!」とか言って脅されているので、さすがに嫌とは言えなかった。
 組織の「処刑室」には巨大なミートグラインダーがあって、一秒間に一センチの速度で人間をひき肉にすることができるらしい。そんなのに十回もかけられたら……。
 どうせ何回も殺されるのなら、せめて戦いの中で殺されたかった。私に勝ち目が無いわけじゃなし……。
「ああ、あいつはうちの組織でナンバーワンの戦闘力を持った殺人サイボーグでバリー藤堂という。力は百五十馬力、三十口径のマグナムライフル弾にも耐える防弾皮膚を持っている。一対一の実戦であいつに勝てる兵士はおそらく存在しないだろうな」
 絶望的な事をにこやかに言いながら、教官は私が装備する武器を選んでカートに乗せてゆく。
「武器は要所要所に隠しておくからな、弾切れになったり、武器を破壊されたりしたら、そこで回収して戦闘続行だ。五分に一回アナウンスで時間経過を知らせるから、頑張れよ。二十九回は死んでもいいからな」
 こうして、私の意見を全く聞かずに殺人サイボーグとの戦いが始まった。

2・
 「つ、強いっ!」
 ボロボロの戦闘服姿で私はつぶやく。私は戦闘開始十分ほどで既に十回ほど殺されていた。
 こちらの銃撃が命中しても全く動じずに突撃してきてぶん殴る。それで私は即死してしまうのだ。
 バリーは私が復活するのを待って、起き上がると同時に攻撃してくる。今も彼に首根っこをつかまれて高々と差し上げられていた。
「今度は自分の首の骨が折れる音を聞きながら死ね!」
 バリーは冷たくそう言うと、あっさりと私の首をへし折った。
 もう嫌になるほど聞いた「ぼきっ」という音と共に、身体から力が抜け、激しく痙攣する。次に復活した時には、既にマウントポジションを取られ、大きな手が私の頭をつかんでいた。
「俺は頭蓋骨が潰れる瞬間が一番好きだ……この軋み、小気味いい音を立てて骨が砕けた瞬間に血飛沫といっしょに一気に弾ける脳漿、たまらないぜ!」
 バリー藤堂、こいつは教官以上に鬼畜だった。私を犯そうとか、性的にどうこうする気は全く無いようで、ただひたすら殺す事で快感を得ているらしい。
 やばい、頭蓋骨がミシミシと軋む。目の前が真っ赤になった。どうやら目から血が噴出してるらしい……あ、砕け……る!!!!! 頭と一緒に意識が吹き飛んだ。
 目が覚めると、バリーが私を見下ろしていた。なんとも複雑な表情をしている。
「……本当に何をしても死なないんだな……それならこいつをブチ込んでも大丈夫だろう」
 バリーはそう言って戦闘ズボンのジッパーを下げた。
「げっ!」
 突き出されたモノを見て私は絶句していた。バリーはそんな所まで凶悪サイボーグだった。一言で言うと、ドリルになっていた。長さ三十センチ以上の凶悪なドリル……。
 表面には鋭い歯のような突起がらせん状に並んでいる。
「こいつは強情な女スパイや戦闘員を責め殺すために付けたものだ。あと十七回、これで殺してやるぜぇ!」
 股間でドリルが回り始めた。ギュイーンというモーター音を伴って次第に回転が上がってゆく。
「行くぞ!」
 私を押さえ込んで、バリーは服の上からあてがってきた。あっという間に戦闘ズボンと下着を貫通したドリルは、勢い余って私の身体も貫通し、地面に食い込んで石にぶつかり、派手に火花を上げた。
「ぎゃわああああああああっ!」
 全身が打ち砕かれたかのような……快感に私は絶叫していた。
「うぐおっ!」
 石にぶち当たったのがバリーもさすがに痛かったらしい。わたしの身体からドリルを引き抜き、地面に転がって苦悶している。
 反撃のチャンスだったが、私も強烈な衝撃と、激痛から変換された快感で半ば失神していた為、よろよろと起き上がって逃げ出すのが精一杯だった。
「二十分経過〜♪……」
 能天気な教官の声が響き渡る。私は武器を隠した地点に向けて走っていた。
 何とか辿り着き、新しい自動小銃と、手榴弾数個、使い捨ての対戦車ロケットランチャーを装備して遮蔽物を確保し、待ち伏せる。
 ロケットランチャーをいつでも撃てるように準備しながら私は待っていた。
バリーは自分の装甲皮膚に絶大な自信を持っている。だから常に素手による戦いを仕掛けてくるから、そこを逆手にとって、銃撃を加えてこっちにまっすぐ突っ込んできたところに至近距離からロケット弾を撃ち込んでやるつもりだった。
 間もなくバリーが現れた。距離は百メートルほど。私は迷わずにフルオートで銃撃を開始する。
 なるべく股間を狙った。そこが弱点のように思えたからなのと、バリーを逆上させて論理的な思考を取らせないためだった。
 凄いスピードでバリーが突っ込んで来た。私は慌ててロケットランチャーに持ち替え、発射!
 しかし、十分な速度が乗る前にバリーが突っ込んできて右手の一振りで叩き落してしまった。こいつは小型のキングコングか……。
「貴様!俺の大事なドリラー君を集中的に狙ってきやがって、こうなったら手加減無しでぶっ殺してやる!」
 凄い表情で、バリーは私を追い詰めてきた。どうでもいいけどドリラー君は安直過ぎるネーミングだと思う。
「さあ、もう逃げ場は無いぞ……」
 高さ五十メートルはありそうな崖の淵に私は追い詰められていた。
 ここはどうやらアメリカのアリゾナかネヴァダ辺りらしい。見渡す限り、プチグランドキャニオンみたいな地形が広がっていた。
「……逃げ場ならあるよ。必殺、ヒモ無しバンジージャンプ!」
 私はあっさり身を翻して崖から飛び降りた。一般的には「投身自殺」という、自分に対して「必殺」の禁じ手だった。
なんとも形容しがたい音と共に下の岩場に叩きつけられ、運良く私は即死していた。
これで奇跡的に重傷で助かっていたら、再生までの数十秒間、私は想像を絶する快感に身もだえし続けなければならない。
復活まで三十五秒。私はまだ痺れている身体を引きずって、武器の隠し場所を目指す。
「三十分経過……」
 何か食べながら話しているらしく、クチャクチャいう音を交えた教官の声がした。
 ここに隠してあったのは、対人地雷、グレネードランチャー等の大物だった。
 正攻法では絶対かなわないので、ブービートラップを仕掛ける事にする。
 どうせボロボロになるだろうと思って予備を用意していた戦闘服に着替え、自分でも邪道の極みだと思うトラップを作って仕掛けた後、私はグレネードランチャー片手に目立つ岩の上にちょっとポーズを付けて立ち、バリーを待ち構えた。
「四十分経過。ふあぁ〜」
 能天気なアクビ混じりの教官の声が谷間に響く。それから三分ほどして、バリーの姿が谷の入り口に現れた。
「待たせたなぁ。もう逃げられないぞ! 残りの時間、殺して殺して殺しまくってやるからな!」
 バリーの声が谷間に響き渡った。勝利を確信した表情を浮かべて殺人サイボーグは歩み寄ってくる。
「そう簡単に殺されてやるもんですかっ! くらえっ!」
 百メートルぐらいの距離に迫ってきた所で私はグレネードランチャーを発砲する。仕様弾薬は軽装甲ならぶち抜いてしまう成型炸薬弾である。直撃すれば、バリーだってそれなりのダメージを受けるはずなのだが……。
「甘いぜぇ!」
 ボクシングのフットワークみたいな上体だけの動きで弾頭をかわされた。
 さすがに秒速九十メートル程度の初速しかないグレネードで人を狙い撃つのは無理があったか……。しかし、かわされるのは予想済みだ。
 バリーがさらに一歩を踏み出した瞬間、砂の中から対人地雷が跳ね上がった。
 空中爆発で広い範囲の敵兵をなぎ倒すタイプの奴である。
 それが彼の前後を挟む形で二発。かわせるはずがない。
 ボキューン!! と、金属質の爆発音が谷間の空気をビリビリと震わせる。
 普通の人間ならひき肉みたいになっちゃってるはずなのだが……。
「こんなのは効かねぇぇぇっ!」
 爆炎の中から、バリーが叫びながら飛び出してきた。
 さすがに服はボロボロになっているが、身体の方はまったくの無傷である。
 不気味なほどにマッチョな赤銅色の巨体が、ほぼ全裸で疾走してくる。
 その股間で、例のドリラー君がギュンギュンと音を立てて回転していた。
「きゃあああああっ! 降参します! だから、だからひどいことしないでぇ! お願い・・・・・・そのドリルで殺して……」
 私は持っていたグレネードランチャーを放り出して叫んでいた。ちょっと瞳をウルウルさせて命乞いなどしてみせる。
「くくくっ。ようやく観念したか。いいだろう。このドリラー君で思いっきりおまえの腹の中をかき回してやろう。内蔵グチャグチャにされるのが気持ちいいんだろう?」
 ごつい顔に嗜虐的な笑みを浮かべてバリーは言う。
「はい……お腹の中、めちゃめちゃに切り刻まれたら、何もわからなくなっちゃうんです。イきまくりながら死んじゃうんです」
 半分泣き声混じりのわたしの声に、殺人サイボーグは満足そうな表情を浮かべる。
「まったくおまえは最高の女だな。何回でもぶち殺せるんだから。さあ、早速始めるぞ!」
「あんっ!」
 いきなり押し倒された。
「ドリラー君にかかれば服なんてあってもなくても一緒だぜ、このままぶち込んでやろう」
 わたしの身体を組み敷いたバリーはニヤニヤとスケベそうな笑いを浮かべている。
 もうそろそろいいだろう。
「やだよん♪」
 そう言った私は戦闘服の襟元に隠してあったワイヤーを咥えて首を捻り、引っ張っていた。その瞬間、物凄い爆発が私とバリーを吹き飛ばす。

「良くやったな、13号! まさか服の下に対戦車地雷仕込んでおくとは、なかなかナイスな攻撃だぞ!」
 復活した私を迎えにきた教官はそう言って誉めてくれた。
 私はお腹に薄型の対戦車地雷を隠していたのだ。それに吹き飛ばされたバリーは、胴体断裂状態で失神していたらしい。死ななかったのが凄いというか、悪運が強いというか……。この戦法は、不死身な私だからこそできる、まさに捨て身の大逆転である。

「なかなか機転が利きますね。そろそろ実戦に出してみてもいいかもしれません」
「うむ。よきにはからえ」
 という会話が、例のグラマー金髪秘書と覆面親父の間で行われていたことなど、そのときの私には知るすべは無かった。

 続く


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